僕は今、この世界を生きている。そしてこれから、戦いの地へと赴く。
 
     「どうしたんですか、達貴さん。何か見えるんですか?」
     「帯刀さん。いえ、山の空が・・・・とても切なくて。」
 
     そう、山の空は見ていると物悲しくなる。雲が亡き仲間達(とも)に
     見えて。峰に立って呼んでも、返るのは山彦だけ・・・・・・
 
     「・・・あの、達貴さん。・・・・俺、聞きたいことがあるんです。」
     「なんですか?」
     「生きていくことって・・・・・どういうことなんでしょう。」
     「生きていく事? そうですね・・・・一人想い出を背負って歩くこと
     でしょうか。決して戻れない・・・・・山道を行くように。」
 
     まだ己の先が見えない、若き輝の皇子。長く争い続けた闇(くら)と
     と輝(かぐ)の一族に終焉(おわり)をつける運命(さだめ)を背負った
     風の若子。自分とは逆の闇に焦がれ、闇の生き方を愛する彼。
     たぶん帯刀さんが、水の乙女である澪標さんを幸せにする。水の乙女
     と風の若子、彼らは互いを自分の半身として、求めているのだから。
 
     「胸にある痛みや涙、自分の過ちにも目を背けずに歩くんですよ。
     自分の命を生かすために。二度と・・・・繰り返さないために。」
     
     「達貴さんも・・・・・そうなんですか?」
     「ええ、もちろんですよ。挙げればきりがないくらい。」
 
        『セグ、俺達はずっと親友だからな!』
        『もちろんだよ、テトラ。』
 
     別世界にある、太古の生物や人間が想像上で考えた神獣や聖獣達が
     暮らしている幻獣想界。そこに生きる、今は滅びつつある三つ爪の
     龍一族。僕を含めた三つ爪の龍は高い山々に身を隠し、ひっそりと
     暮らしていた。そしてそのうちに、海に暮らすものと山に残るものとに
     分かれていった。それから何千年とすぎた時、それは起こった。
 
     海に住んでいた者達が、山をも領地にしようと攻撃を仕掛けてきた。
     その筆頭だったのが、僕の親友だったテトラ。僕は山に残った龍の
     代表として何度も和解を求めた。でも、彼は受け入れようともせずに
     攻撃を続け、そしてとうとう互いの生き残りをかけて争いが始まった。
     その中で僕は何人もの仲間を失い、自分と同じ一族を手にかけた。
 
     そして・・・・・テトラを討った。一族が分離するまではいつも一緒に
     遊び、苦楽を共にしてきた何より大事な友だったのに・・・・・・・
     今でも忘れられない。テトラを討った瞬間、彼が僕を見た目。悲しみと
     苦痛にまみれていた・・・・・・あの表情を。僕は忘れてはならない。
 
        『リュート。たとえあなたがドラゴンでも、私はかまわないわ。
        ずっと一緒に生きましょうね。』
 
     もう一つの傷。一族の戦いを終えて空しさを感じた僕は、遊び心で
     人間界に降りた。今でいうアメリカだったそこに下り立ち、気ままに
     いろんな場所へと旅した。そんなある日、僕は一人の人間と出会った。
 
     女性の名はルシア。彼女は実の父親に虐待を受けながらも、強く
     生きていた。そんな彼女に惹かれ、異種族であるとわかりながらも
     僕は愛した。彼女もそんな僕を想ってくれ、龍だとわかっても愛してると
     笑顔で話してくれた。今はただ、その笑顔が胸に突き刺さる・・・・・・・
 
        『リュート・・・・ごめんなさい・・・ね・・・約束・・・・守れなくて・・・・』
        『どうして・・・こんな・・・・・ルシア!!』
 
     僕が彼女のうちを訪ねた時、彼女は父親に腹を刺されて倒れていた。
     父親は彼女を刺してから、自分の心臓を刺して自殺した。僕が抱えた
     彼女の華奢な身体からは血が止まることなく出て、彼女は死んだ。
     僕に向かって弱々しく語りかけた時の表情は、テトラと同じだった。何も
     出来なかった自分が恨めしくて・・・・・僕はまた一つ、傷を負った。
 
     でも僕は忘れない。自分が経験したそれら出来事をすべて。いつか
     着く、逝ってしまった皆が待っている尾根に立つまで・・・・・ずっと・・・・
 
     「達貴、そろそろ行かなければ。」
     「あ・・・・はい。わかりました、亨架嬢。帯刀さん、行きましょう。」
     「はい。」
 
     そして今、僕は闇の王である亨架嬢の式神として彼女に仕えている。
     亨架嬢は闇の元締めでもあり、闇の人々に慕われている。けれど、
     女として生まれた彼女は祖父様に男として育てられ、一族の上に立つ
     者の孤独さを幼い頃から味わい、そしてそれは今でも変わらない。
 
     自分に式神の命が来た時、僕は決めた。今度こそ、この人を見守り
     助け、できる限りのことをしよう。亨架嬢が本当の幸せを掴むまで、
     なんとか僕が・・・・仕える十干十二支全員が、彼女を支えていこうと。
 
      それが、僕よりも先に尾根に逝った者達への・・・・・・せめてもの
      贈り物として・・・・・・
 
 


 
 1番弟子こと白夜さんの、短編です。
 僕が辰年だということで、辰、つまり龍のことを書いたそうです。
 彼女の書くものは、どこか切なくて、その悲しみを包み込むようなものが多いようです。
 ……ええ、僕には書けないですな(^^;)
 


 
 
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